「貯蓄から投資へ」というスローガンのもとで投資を始める人が増えているようです。
老後の備えや結婚、マイホームなど人生のイベントのためにコツコツと投資を始めることは賢明な選択でしょう。しかし、投資の世界では、投資初心者をかもにしようと証券会社や機関投資家などの海千山千の人たちが待ち受けています。
特に証券会社の場合、すべての営業マンが投資家をかもにしていると言うわけではありませんが、自分の目標達成のために顧客に魅力の少ない商品を勧めている人がいるのも事実です。
機関投資家や専業投資家は別として個人投資家と証券会社では情報の非対称性が激しいので、証券会社の営業マンに勧められたらついつい買ってしまうという方も少なくありません。
信用できない証券会社の営業マンの特徴
証券会社とのトラブルを抱えた投資家の方が金融庁や消費者庁に連絡するケースが後を絶ちません。その度に法律が改正されたり、証券会社などの金融機関の向けに通達が送付されますが、それでも個人投資家をカモにする営業マンは一定数います。
証券会社といっても営利企業ですから、自社の利益を第一に考えることは間違ってはいません。しかし、顧客利益を蔑ろにしてまで自社の利益第一で行動する営業マンは一定数いますので、投資家の側が見抜かないといけません。
ここからは、信用できない証券会社の営業マンの特徴をご紹介します。ここで挙げる特徴に当てはまる営業マンからは金融商品を購入しないことをおすすめします。
高い手数料の投資信託を勧める
「銀行預金では金利が低いので、投資信託で運用したほうがお得ですよ」
こんなことを証券の営業マンに言われた方もいるかもしれません。証券会社にとって投資信託の手数料は重要な収益源です。投資信託を販売することによって、次のような手数料を顧客から徴収しています。
販売手数料…購入時にかかる手数料
信託報酬…保有している時にかかる手数料
信託財産留保額…投資信託の解約手数料
上記の手数料のうち、販売手数料と信託報酬は証券会社が自由に決定できるものです。
投資家としては手数料が低いほど、手元に残る運用収益が大きくなりますが、証券会社としては、顧客が儲けようが損をしようが手数料の高い投資信託を勧めたほうがお得です。
手数料を高く取るために証券会社の営業マンは商品性や顧客の知識や経験に関係なく、手数料の高い投資信託を勧めることがあります。
例えば、日経平均株価に連動するように作られた投資信託Aがあるとしましょう。この投資信託Aの中身は日経平均株価の算出に用いられる225銘柄の中から選定されています。通常、インデックスファンドはアクティブファンドに比べて手数料が安いのですが、中身をちょっと変えたり、名称をユニークなものにすることで、独自性のある投資信託Aを作り、手数料を高く設定しています。
日経平均株価に連動することを目指すインデックスファンドやETFはいくらでもありますので、値動きはほとんど変わりません。変わるのは投資コストです。
販売手数料信託報酬
投資信託A:購入額の1.3% 保有資産×0.5%
日経平均株価に連動するETF無料保有資産×0.2%
このように構成銘柄がほとんど同じでも販売手数料と信託報酬の違いによって、投資信託Aを購入することは明らかに損です。
しかし、投資家の利益や合理性ではなく、証券会社の利益を追求する証券マンはETFやインデックスファンドと中身がほとんど変わらない高い手数料の投資信託を勧めてくることがあります。
当たりもしないIPO株をアピールポイントにしている
IPOといえば、上場初値が公募価格を上回ることが多く、低リスクで大きな利益を得られる可能性が高い人気の高い商品です。しかも購入時手数料はゼロ。それだけにIPOは証券会社の人気商品であり、個人投資家から富裕層まで幅広い層に人気があります。証券会社にとっては新規口座開設の「餌」のような役割を果たします。
その一方で抽選の当選確率が低く、一般の投資家にはなかなかチャンスが巡ってきません。例えば、1,000株の購入を希望しても、100株しか購入できなかったり、最悪の場合1株も購入できません。したがって、IPO投資を目的に証券口座を開設しても株式を購入できないことが多々あります。
しかし、証券営業マンの中にはIPO株の魅力を前面に押し出し、当選確率には触れずに投資家に証券口座開設を勧めてくる人がいます。そういった証券マンは「IPO株は必ず当選するとは限りませんが、公正な抽選によって決まります。お客様にも当選の可能性は十分にありますよ」とセールストークをします。
しかし、IPO株は決して「公正」な抽選のもとに配分が決まるものではありません。確かに抽選なのですが、配分の力学は証券会社によって恣意的に決まっています。
大抵の場合、営業マンはどの顧客にどれだけのIPO株を配分するのかを自分で決めていますので、実質的には「抽選」ではなく「裁量」です。この時に営業マンが優先的に配分する顧客とは「投資資金の大きい投資家」です。少なくとも500万円、できれば1,000万円の投資資金を証券口座に入金しないと優先されません。
IPOの配分はそれぞれの営業マンの裁量次第であり、営業マンの評価をあげてくれる顧客に優先的に配分を行う営業マンが多いのです。逆にこれだけの投資資金を入金できれば、営業マンの評価が上がるので、優先的に配分してくれるでしょう。
あるいは超富裕層で、「この人にIPO株を当選させてあげれば懇意にしてくれるかもしれない」と営業マンが考える投資家に配分したり、以前勧めた株式で損をさせてしまい、謝罪の気持ちをこめてIPO株を配分する営業マンもいます。
さらにいえば、同じ証券会社でも営業マンによって配分できるIPO株の数には違いがあります。ベテランの営業マンのほうが新人の営業マンよりも割当株数は多いのです。つまり、どの営業マンに当たるかによって勝負は始まっているのです。
ちなみにネット証券やリアル証券会社のオンライン口座では、完全抽選でIPO株を配分することはあります。しかし、抽選にくる投資家の人数に比べて、配分数が圧倒的に少ないので、当選確率は圧倒的に低いです。
「富むものは更に富み、貧しき者は更に貧しくなる」という言葉を聞いた事がある人もいるかもしれませんが、結局のところ投資の世界にも同じことが言えます。資産がある富裕層ほど証券会社に贔屓され、贔屓にされるために投資で勝ちやすくなります。投資で勝てばさらに資産が増え、さらに贔屓にされるのです。
「安心」や「安全」を強調する営業マンに注意!100%安心な商品は存在しない
「投資」と聞くと危険なイメージを持つ方もいるかもしれませんが、投資商品の中にはハイリスク商品以外にもローリスク商品もあります。個人向け国債はローリスク商品の一つであり、日本政府が発行しているため国内のいかなる企業や地方自治体よりも信用度の高い商品です。手数料が低いので、証券会社にとって旨味のある商品ではありませんが、投資に躊躇する高齢者などに証券口座を開設させる「餌」として利用されます。
個人向け国債を販売する時の常套セールストークは「国債は日本政府が発行しているので安心・安全です」というものです。
確かに安全性の高い商品ですが、確実にリスクは存在し、リスクを説明しない営業マンがいるのも事実です。
国債を含めて債券は発行体リスクを抱えています。これは発行体が倒産したら、利子がもらえず、元本が返済されないリスクです。つまり、日本政府が財政破綻したら、国債は無価値になる可能性があるのです。 ちなみに投資に「絶対」を求める方は要注意です。世の中の金融商品の中でリスクのない商品は存在しません。
日本人であれば誰もが持っている銀行預金ですら100%安全ではありません。
銀行預金はペイオフという制度で守られています。ペイオフとは、銀行が破綻したときであっても、元本1,000万円までとその利息の払い戻しを保証する仕組みを指します。これを保証する機関は預金保険機構ですが、政府・日本銀行・民間金融機関の出資によって運営されています。
極端な話、金融危機が到来し、たくさんの銀行が同時に破綻した場合には預金保険機構がすべての預金を保証する能力がないかもしれません。ただし、その場合には国が公的資金を注入し、金融機関を救済するでしょう。
結局のところ、銀行預金の最終的な後ろ盾は「日本政府」です。国債・銀行預金ともに「安全性は極めて高いと言えるが、100%安全ではない」ということを覚えておきましょう。
毎月分配型投資信託を勧めてくる営業マン
証券会社の営業マンに勧められるがままに購入した投資信託の報告書が送付されてびっくりした経験はありませんか?「毎月分配金をもらっているはずなのに残高がマイナスになっている?どういうことだ?」と思った経験はありませんか?毎月分配型投資信託を購入するとこのようなことが実際に起こりえます。
営業マンは毎月分配型投資信託について「毎月必ずお金がもらえるお得な投資信託があります!」とか「毎月20%の分配金を受け取れる魅力的な投資信託がありますよ!」といって勧誘してくることがあります。しかし、運用益をもらっているにもかかわらず残高がマイナスの場合には、受け取っているお金は「運用益」ではなく「元本」である可能性が高いです。
毎月分配型投資信託については商品性を理解していないにもかかわらず、証券会社の営業マンの言ったことを信じて購入してしまう投資家があとを絶ちません。
そもそも「分配金」には普通分配金と特別分配金があります。
普通分配金とは、運用益から支払われる分配金ですが、特別分配金とは、元本を切り崩して支払われるお金です。特別分配金を受け取っているということはタコが自分の足や腕を食べているようなもので、決して儲かっているわけではありません。
しかし、毎月分配型投資信託では毎月の運用によって普通分配金を稼げないと元本から分配金を支払う仕組みになっているのです。また、たとえ運用益を生み出していても元本に追加せずに投資家に還元してしまうので、その後投資信託の価値が上昇しても、獲得できる利益が少なくなるので、長期的には不利です。
このように考えると毎月分配型投資信託は相場が上昇しても下落しても投資家には不利です。なぜこのような商品を証券会社は販売しているのでしょうか。
これは簡単な話で「人気が高く売れるから」です。
毎月分配型投資信託が販売され初めて間もない頃は証券会社の人気商品ランキングに毎月分配型投資信託が何本もランクインしていました。このような非合理的な商品でさえ購入してしまう投資家が非常に多いのです。
毎月分配型投資信託に限定せず証券業界では投資家にとって非合理的な商品がトレンドになることがあります。「人気があるから」とか「証券会社が勧めているから」ではなく、自分で投資対象の商品を選べるようにしましょう。
元本確保型の生命保険を「元本が確保される」と勘違いさせる
個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)で最も人気の高い商品が元本確保型の生命保険です。
証券会社の営業マンのなかには「元本確保型の生命保険なので安心です!」とか「株式や投資信託ではなく生命保険なので安全ですよ!」といって勧誘する人が少なくありません。
特に以前株式投資や投資信託で損をしてしまった投資家は「投資はもう嫌だ」と思っている方もいます。
そのような投資家に「元本確保型」というワードは魅力的に聞こえます。
ここで注意したいのは元本確保=元本保証、つまり「運用期間すべてにわたり元本の額が減らない」というわけではないということです。
そもそも元本保証とは、投資家が損失を被った場合に証券会社が損失を補填するという意味です。しかし、ここで金融商品取引法第39条を見てみましょう。
第三十九条 金融商品取引業者等は、次に掲げる行為をしてはならない。
有価証券の売買その他の取引(中略)につき、当該有価証券又はデリバティブ取引について顧客(中略)に損失が生ずることとなり、又はあらかじめ定めた額の利益が生じないこととなつた場合には自己又は第三者がその全部又は一部を補塡(中略)行為
つまり、顧客が有価証券(生命保険含む)の取引によって損失を被った場合に証券会社が損失を補填する行為は法律で禁止されています。もし「元本保証型」の生命保険が存在したら、法律違反になってしまいます。
元本確保型と元本保証型とは意味が根本的に異なります。元本確保型とは、満期を迎えた時に元本と利息が支払われるという意味です。元本保証型のように生命保険会社が損失を補填する仕組みでは有りません。したがって、生命保険会社が破綻すれば、満期になっても元本と利息は支払われません。あくまでも満期を迎えた時に何もなければ元本と利息が返ってくるという意味です。
さらに注意したいのが元本確保型の生命保険には外貨建て保険があります。
外貨建て保険とは、払い込んだ保険料を米ドルやユーロといったような外貨で運用する保険商品です。外貨建て保険の場合には、元本確保の「元本」は外貨ベースを指しています。為替は常に変動しており、円ベースで考えると、元本が確保されないリスクがあります。
外貨建て保険については、元本確保型かどうかに関係なく、商品内容を理解しないまま購入した投資家が証券会社とのトラブルに発生する事例がたくさんあります。
元本確保型の生命保険は他の生命保険商品に比べると安全性が高いと言えますが、投資家がイメージする「元本保証」ではありません。しかし、その点を十分に説明せずに元本確保=元本保証かのように営業トークをする証券会社の営業マンや生命保険会社の営業マンは少なくありません。
まとめ
記事で解説したことを簡単にまとめると、投資家にとって不利な金融商品を勧める営業マンや真実でないことを真実であると誤認させるおそれのあることを平気でいう営業マンは信用してはいけません。そのような営業マンから金融商品を購入しないようにしましょう。
証券会社を含めて金融機関は法律や金融庁の指導によって、嘘をついてはいけないことになっています。しかし、ボーダーラインを超えないスレスレのラインで顧客を手玉に取る営業マンもいることを覚えておきましょう。
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